東京都知事 石原慎太郎殿 |
2003年8月27日 |
あきる野市横沢入地区の里山保全地域指定を求める要望書 |
横沢入里山管理市民協議会 構成団体 伊奈石の会 NPO東京どんぐり自然学校 里山遊志 西多摩自然フォーラム 日本野鳥の会奥多摩支部 ムササビの会 |
1.東京都自然保護条例改正案が平成12年度12月都議会で可決され、同改正条例は平成13年4月から施行されています。この条例改正にともなって、保全地域制度の中に「里山保全地域」が新設されました。あきる野市横沢入地区をこの「里山保全地域」に指定していただきたくお願いする次第です。 2.あきる野市横沢入地区は、JR五日市線武蔵増戸駅〜武蔵五日市駅間の北側に位置し、三方を標高約300m強の山々に囲まれ、南に向かって開けた谷戸です。面積は約65ha、谷戸の横幅は広い所では100mを超え、明るい谷戸の景観をつくりだしています。 3.横沢入は、奥多摩山地と丘陵の接点に位置し、また、中央部に約7haの広大な湿地を有しています。水田耕作が放棄された後の中央湿地は、耕作放棄の年代のずれにより、セリ・イ・ミゾソバ群落、コガマ群落、ヨシ群落、ヤナギ林等変化に富んでいます。また、山腹は、コナラ・シデ等の二次林及びスギの人工林からなり、稜線の一部にはアカマツ林が成立しています。こうした自然環境の多様性を基盤として、かって東京の里山が武蔵野台地から多摩地区の丘陵部にかけて広がっていた時代には広く生息していたが、現在では生息地が局限されたり少なくなった生物が数多く残つているという、貴重な自然が形づくられています。 4.動物については、鳥類では、隣接地域にオオタカ(環境庁レッドリスト1998:絶滅危惧U類)が営巣し、この重要な行動圏になっています。両生類では、トウキョウサンショウウオ(レッドデータブック:絶滅の怖れのある地域個体群)の生息地であり、山裾の湿地は同種の産卵場となっています。また、ヤマアカガエル、シュレーゲルアオガエル、トウキョウダルマガエル等のカエル類の良好な生息地となっています。魚類はホトケドジョウ(環境省:絶滅危惧TB類)の貴重な生息地となっています。昆虫類は1,298種(1995年時点)という大変に数多い種類がこの地域から記録されています。ゲンジボタル、ヘイケボタルが多数発生し、殊に、ヘイケボタルは東京都最大の発生地となっています。国蝶のオオムラサキ(レッドデータブック:希少種)が生息するほか、ヤマトセンブリ(アミメカゲロウ目)の国内唯一の現存生息地であり、イチモジヒメヨトウなど全国的にも生息地が限られる湿地性の蛾類も生息しています。トンボ類も34種が確認されていて、東京都では生息地も限られるヤマサナエ等の貴重な生息地となっています。 5.自然環境のみならず、横沢入には中世〜近世の伊奈石石切場遺跡があり、歴史的文化財の遺構が随所に残されています。 6.以前は、谷戸の隅々まで水田耕作が営まれ、山腹の樹林は里山林として活用されていた横沢入も、水田耕作が放棄されるにしたがい新たな土地利用が模索され、旧五日市町ではこの地区での住宅開発を計画しました。東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」と言う。)が事業者となり、約1,000戸の住宅開発が計画されてきました。しかし、その後の調査で横沢入の自然環境の豊かさが分るにつれて、自然環境の保全と開発の調整が大きな課題となり、平成12年10月、自然環境への配慮と事業の採算性の両立が困難なことから、JR東日本は開発を断念し、あきる野市は都市計画マスタープランの策定にあたり、横沢入地区を「生態系豊かな谷戸の自然と人々がふれあえるゾーン」と位置づけることとなりました。 7.その後、開発計画が頓挫した後の横沢入の自然環境をどのように保全活用していくかが当面する課題となっています。横沢入のように里山と表現される自然環境は、人手が入って始めて維持される自然であり、管理のための作業が不可欠です。 また、横沢入は、あきる野市民はもとより広く東京都民の利用の場となっています。地元の保育園や各地の小学生の教育の場として利用され、さらに、ホタル・野鳥・植物・水生生物等の自然観察、伊奈石石切場遺構の見学、森林作業体験、草笛コンサート、セリ摘み、ハイキング等多くの人たちに利用されています。 8.したがって、自然環境の保全と利用を一体とした以下のような保全活用が望まれます。 (1)東京都に残る貴重な里山自然環境の保全 (2)学校教育における総合的な学習の一環としての環境学習の場 (3)自然観察・歴史学習の場(4)里山の維持管理の体験学習を通じて、里山の自然と文化を 学び受け継ぐ場 (5)のどかでやすらぎのある景観を楽しむ場 (6)野外レクリェーションの場 9.東京都は、里山保全地域指定にあたっては、その地域の自然の質と里山保全管理の社会的条件とを重視していると伺っております。横沢入地区は、東京都が平成12年度に行った多摩地区全体の谷戸の調査において、自然の質については最上位の評価を受けています。また、一時期皆無となった水田も昨年から地元地権者による復田が始まり、里山にふさわしい光景が復活しつつあります。社会的条件についても、あきる野市が都市計画マスタープランで「生態系豊かな谷戸の自然と人々がふれあえるゾーン」とし、土地利用、保全管理の検討作業を行ってきたこと、横沢入地区の土地の大半を所有するJR東日本が自然環境の保全に協力的であること、横沢入の保全管理に関わる市民団体が、平成13年1月「横沢入里山管理市民協議会」を設置し、市民団体間の調整並びにJR東日本との調整を図りながら、保全管理のための作業を行なっていること等から、十分に条件が成熟してきていると考えます。 10.私たちが心配しているのは、横沢入地区の一部に残るJR東日本未買収地です。JR東日本の開発断念により、今後の横沢入地区の土地利用がどのようになっていくのか、地元の地権者には不安が残っています。前述のような田んぼの復活の動きは大変に喜ばしくありがたいことですが、逆に、土地が転売され、水田跡に残土が埋め立てられ資材置場になるような事態は何としてでも避けたいところです。そのためには、一定の規制の網の目がどうしても必要になっています。横沢入地区は、東京都に残る数少ない里山自然環境の一つとして、後世に向けて残さなければならない都民の財産であると考えます。あきる野市横沢入地区を里山保全地域に指定していただくよう切にお願いいたします。 |
連絡先 内山孝男 190−0162東京都あきる野市三内86―3 電話番号 042−595−0402 e-mail uchimaya@f2.dion.ne.jp |