横沢入保全のための参考意見


 「横沢入を語る会」では平成14年(2002)3月から月1回、どのような横沢入であってほしいか、横澤入をどうしたいか、横澤入の魅力と現状の問題点など、横澤入についての市民の思いを語り合ってきました.平成15年(2005)10月まで19回46人・延べ210人が参加し、それぞれの思いを述べてきました.

 平成15年(2003)11月からは、今まで語り合って来たことを踏まえて「横沢入保全計画(市民案)」をまとめようということで、横澤入のホタル、トウキョウサンショウウオ、オオムラサキ、鳥類などに詳しい方をお呼びして、実態や保全上の留意点等について御話頂いたり、現地を歩きながら御教示頂いたりして、私たち自身が勉強しました.

 しかし、横澤入についても、その他の自然についても、知識・経験に乏しい私たちには「保全計画(案)」を作るのは、手にあまる課題であることがわかりました.さりとて、「語る会」に参加して頂いた多くの方々の貴重な意見やわたしたちの勉強のために御忙しい中を講師を引き受けて頂いた方々のすばらしい講義や現地でのご教示を、このまま埋もれさせることは許されないことと思い、今後市民の側として「横澤入保全計画(市民案)」を作る上で、参考資料のひとつとして役立てて頂ければと思い、非力を顧みず、拙い報告書をまとめてみました。




この報告書は、

 (1)   所有権の問題

 (2)   保全及び維時・管理についての基本的な考え方

 (3)   水田・湿地について

 (4)   山林について

 (5)   動植物について

 (6)   歴史・文化的遺産について

 (7)   利用の仕方について

 (8)   維持管理費の捻出方法その他について

の八項目について、

<A> 「語る会」で出された意見をできるだけそのままの形で紹介します.(ムササビの会が行った「葉書アンケート」の回答を含む)
<B> 私たちの意見を述べます.<A>の中には矛盾・対立する意見、調整の必要な意見などが含まれているので、それらについて、私たちの選択、調整意見を述べます
<C> (5)の動植物については、私たちに御教示いただいた方々の御話を、できるだけ詳しく紹介します.(分量の関係で全体の中でのバランスを考え、相当要約させて頂きました)

という構成になっています.つまり、記録を中心にした報告書となっています.尚、文章の責任はすべて、「横沢入を語る会」有志にあります.




(1)所有権問題について

  この問題については、このテーマだけで話し合ったこともあり、他のテーマの話し合いにおいても繰り返し「所有権の問題が片付かないのに、ここでいくら夢を語り合っても無意味ではないか」との意見が出されました.当然のことですが、「語る会」の話し合いにおいて、重要な位置を占めるテーマでした.しかし、「語る会」としては、横澤入が東京都の「里山保全地域」第一号に指定されることを前提とし、そのときになってあわてて保全について考えるのでなく、前もって市民の考えをまとめておこう、それがこの会の独自の任務だという基本的な立場で会を進めてきました.この報告書もそのような立場に立っています.従って、この問題についての意見の紹介は省略します.
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(2)保全及び維時・管理について
【基本的な考え方】  【施設について】
木道・立入り禁止区域、その他の規制について】

【車の乗入れについて】



【基本的な考え方】

<A>     「語る会」及び「葉書アンケート」に寄せられた意見

奥多摩にある「体験の森」のように責任のある人を置き、有料で体験させる.訪れる人が自らの行動に責任を持ち、自然に負荷を与えないようにする.
「寺家ふるさと村憲章」をモデルにする.
世田谷プレーパークのような管理の仕方が良い.
ローテーションを組む.(次のABCを数年かけて)
 A 遊ぶ場(見る、捕る――後で放す)
 B 補修する場(遊んだ後のAを補修する)
 C 保護の場(補修したBを立ち入り禁止にする)
雑木山以外は手入れをしないで放っておいた方が盗掘されない(野草など)
行政の取り組みを先行してもらい、科学的理論に基づく手法で、我々の手で末永く地道に行いたい.
行政主導ではなく現場を知っている人たちが主導する
行政に予算を取らせ市民団体がそれを使う.
最低限の手を入れて後は今のままが良い.
地元住民にはっきり示し、宣伝し、いっしょに考え行動してもらう.――地元の知識技術活用.
専門知識を持っている人、実技のできる人、その他の活動のできる人にボランテイア登録をしてもらい、その登録料を基金にする.
手作りの学校を作って資金を作る.

<B>     私たちの考え

JRが東京都に土地を無償提供し、東京都による「里山保全地域指定」がほぼ確実となった今、私たちは東京都に対して、横澤入の維持管理に関して、私たちの考えや要望を伝えていくだけでなく、積極的に協力していく必要があると思います.

(1)  自然の遷移に任せ、人の出入りも利用の仕方も訪れる人に任せるという考え方もありますが、横澤入を「里山」として保全していく限り、人が何らかの手を加えることは不可欠です.里山は人々の生活の場であり、人が水田耕作・炭焼きなどを通じて一次自然に働きかける中で作り出された二次自然ともいうべきものです.問題は手の加え方だと思います.

(2) 手の加え方を規制するのは、そこが生活の場でなくなった私たちの時代の「里山」の価値をどうとらえるかにあると思います。

@ 「里山」の第一の価値は生物多様性だと考えます.私たちが「語る会」を始めてからのこの三年間でも、横澤入の自然は年々荒廃の度を増してきました.中央の水路の水位が下がり、開放水面が減り、湿地の乾燥化が進んでいます.そのため、植生・植相が単一化へ向かい、それに伴って鳥や虫や小動物の種類や数が減り、オオブタクサ・ガビチョウなど本来横澤入にいなかった種がはびこり、ミゾソバやヤナギなど特定の種の増加が見られます.生物の多様性を維持するためには、水田・池・水溜り・湿地・少し乾燥した土地・荒地・草原・斜面・雑木林・植林・藪等など、さまざまの条件をもった土地がモザイク状に存在する「里山」を回復し、保全していく必要があります.

A 第二に、子供たちの遊びと学びの場としての里山の価値があると思います.
 ギリシャ神話のアトラスが、大地に体を触れることで傷つき疲れた体を癒し、活力を取り戻すように、人の心も体も土に触れ自然の中で遊ぶことによって、しなやかに豊かにたくましく形成されます.豊かな生態系を有する里山の自然は、子供の心と体が健やかにたくましく育っていく上で大切な源です.又、米を作り餅を作って食べる、ソバを植え伊奈臼で引いて蕎麦を打つ、炭を焼いて炭を利用する、セリ・ヨモギなどを摘み料理して味わうなど、里山での生活の一部を再現することで、昔の人々の生活――自然との関わり方・昔の人々の智恵を学び身につける場にしたいと思います.

B    第三に、都市化した(土・自然から離れた)日常生活の中で、ボロボロになり・ザラザラになり・トゲトゲになった大人達の心を癒し、潤いと活力を回復してくれる場としての里山の価値があると思います.

 以上のような里山の多様な価値を保全し・強化するための維持・管理作業が必要であり、そのために禁止や規制という手法も一部必要になってくると考えます.逆に言えば、禁止や規制はそのためのみに限るべきで、無闇無用の禁止・規制は避けるべきだと考えます.

(3)基本的には東京都が責任を持って管理することが望ましいと思います.維持管理のための経費と職員を東京都が確保する。そのほうが雇用の促進にもつながり望ましい.不足の分を市民・都民のボランテアで補う.しかし是は、行政の立てた計画を、市民・都民が下請け的に請け負うということではありません.次に述べるように、計画段階から市民・都民が参加し、行政といっしょに、対等の立場で横澤入を「里山保全」していくことが前提となります.ただし、経費と人員の確保は、基本的には行政の責任と考えます.

(4)市民・都民の恒常的なボランテア組織を作り、東京都及びあきる野市と協議しつつ、保全計画を作り、維持管理作業に携わると共に、基金を作り、経費面でも一定の役割を果たしたい.現在活動している、「里山管理市民協議会」が母体になることが望ましいと考えます.

(5)東京都と市民・都民のボランテア組織との恒常的な協議機関を作る.

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【施設について】

<A>     「語る会」及び「葉書アンケート」に寄せられた意見

ビジターセンターを造って解説員を置く
ソバ打ちの店や炭焼き小屋を作り、自然を楽しむ都民を迎える.
里山の歴史と文化を伝える施設、木質バイオマスエネルギー施設などを作る.
横澤入の中には施設を作らない.

<B>     私たちの考え


横澤入の中には管理事務所・駐車場を含め建物・施設を作らないようにする.主に次のような理由によります.
☆ 建物・施設に人が常に出入りし、利用することによる周囲への悪影響を憂慮する
☆ 「日本むかしばなし」の世界に入り込んだような横澤入の独特な景観・雰囲気を守る

 問題はこのような施設・建物の適地ですが、是も所有権の問題を棚上げにして、候補地をあげてみますと、

@ 五日市駅前広場

A 五日市側からの小机林道入口付近(この付近にはあきる野市の土地開発公社が保有する「歴史と文化の森事業用地」があります.

B 分水嶺付近

C 増戸側からの入口付近(鉄道線路に沿ったところ)等が考えられるかと思います。


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【木道・立入り禁止区域、その他の規制について】

<A>「語る会」及び「葉書アンケート」に寄せられた意見


管理するところとしないところの区割りをするのではなく、モラルとしての制限は必要.(歩行経路を)制限する木道や立入り禁止の場所が無いほうが良い.
木道や行政風の看板など余計なものを加えないように
一般の人が入れて、皆が手入れを楽しみながらやれるように(あまり管理されない)
24時間はいれる、見られる、触れられるところ
ぶらっと行っても入れるところ
モラルで制限するか、学習として体験させる
パトロールをして自然との付き合い方を教える.(観察したら戻す、畔に入らないなど)
人が入りすぎて荒れないように、見えないところで水系、生態系のコントロールをする
人数制限をする
横澤入に来られる条件として、少しでも出来る範囲の草刈や補修作業をしてもらう
ただ自然の中に浸るのではなく、その中で作業をして汗を流し、子供はその間プレイリーダーなどが危険のないように見守る中で自由に遊ぶ

<B> 私たちの考え

 大勢の人が横澤入を利用することで、予想される環境への負荷を少なくするにはどうしたらよいかという問題だと思います.基本的には規制・禁止と言う直接的方法でなく、教育や誘導などの間接的方法によるべきでしょう.しかし、

@ 動植物の保護のため
A 非健常者が横澤入を楽しむことが出来るように

場所と時期を限定して、立入り禁止区域を設けること等も必要だと考えます。
たとえば、

《立入り禁止区域とその期間》
☆下の川――ホタルの幼虫が上陸し、蛹になり、成虫になるまでの期間
☆水田――畔の補修・水入れ・収穫までの間畔に入らないようにする
等の措置が考えられます。
 又、横澤入の中には極力注意事項などの看板は立てず、立てる場合は案内板も含めて、無味乾燥なものでなく、例えば民芸風なほのぼのとしたもの・読めば新しい発見があるようなものにするなど、横澤入の雰囲気に合ったものにしたいものです。

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車の乗入れについて】

<A> 「語る会」及び「葉書アンケート」に寄せられた意見

車での来訪を禁止する.駐車場を作って横澤入に(車で)入らないようにしても横澤入に行くまでの沿道の大気汚染はどうするのか.横澤入という環境が守れても新たな公害を引き起こしたのでは意味が無い.……駅から近いのだから電車を利用すればよい.(身障者用、救急用は必要).環境に配慮した横澤入というイメージを世間にアピールしたい。他の似たようなところのモデルケースにしたら良い.
車の立入りは禁止する.横澤入を楽しむ人の妨げになる.自然環境を破壊する.景観を損なう.ただし非健常者の車での立入りを特例として認める.
自動車で行ってはいけないということになると自分は行けなくなってしまう.普通の人たちに支えられないようなものはだめ.環境のことなどあまり考えないようなろくでもないような人間が横澤入に来て癒してもらう、そんな場であってほしい

<B> 私たちの考え

 原則として車の乗入れは禁止すべきだと考えます.駐車場は横澤入の外に設けるが、広い駐車場を確保するのは不可能なので――たとえ可能であっても、最寄駅から徒歩30分前後であり、散策に適した距離であり、大きな駐車場を作ることによる大気汚染を考えると、一般来場者用の大きな駐車場は作るべきでないと考えます――、維持管理用及び非健常者用に限定せざるを得ないと思います.
 非健常者のために――中央の道を車椅子でも移動できる道にする必要があります.(舗装化など横澤入にふさわしくない方法はとらない)
 横澤から横澤入を通って小机に抜ける林道は公道のため、バイクや自動車で通過する人がいます.横澤入が里山保全地域に指定されれば、通過禁止・乗入れ禁止の措置も可能と考えます.又、このような措置をとることで、横澤入の貴重な動植物の盗掘・盗獲・車の排気ガスなどによる影響、粗大ごみの不法投棄を相当に防ぐことが出来ると思います
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(3)水田・湿地・水路について

<A>「語る会」及び「葉書アンケート」に寄せられた意見

(以下は「横澤入のイメージ」というテーマで語り合ったときの意見を主としています.)

田圃が二三枚あったらよい.田んぼがきれいに耕作されていたほうが生物も豊か
谷津田があること.上から段段に水を利用していく智恵.川と水田を生物が行き来する
谷津田.手入れが十分されている.落ち葉を肥料にするなど、よく管理されていた.水の管理も.今の横澤入は里山ではない
水田の復活.一部は田圃、他は湿地に
原風景の水田を残す.丘陵・山頂・湿地のよさ
水が流れていて、山があって気分が良いところ.上のほうは田圃が6〜8枚、下のほうは植物・動物がすむところ
横澤入は標高差があるからよく水が流れている.溜池を作れば田圃が出来る
湧水.植生が豊か
草堂の入がまだ耕作をしていて、一枚一枚の田圃があった.尾瀬に匹敵する湿地があり……湿生植物が豊かで良いところ……夜、カルガモが水辺にいる.人気の無い真っ暗な森と自然が良い
カワニナ・モノアラガイ・サカマキガイが良く育ち、ホタルの上陸・蛹化・羽化に適した水辺環境の維持
ホトケドジョウ等の貴重種の生息環境の保全
野鳥観察が出来る沼.トンボ池
モリアオガエルの繁殖地にする
トウキョウサンショウウオ・オタマジャクシ・アカハライモリ等が見られるところ
ヤナギが7種類もあるのは注目に値する
小川で遊べる
セリ摘み等が出来るところ
荒れた里山、その面白さがある
他の市町村に貸し出して米を作り、ここで取れたお米をあきる野市の学校給食に利用する
学校の実験田
体験学習(子供・大人)の場

<B> 私たちの考え

 水田の無い横澤入は考えられません.問題は@どこに・どの程度の水田を作るか A誰が・どのようにして水田を維持していくか B出来たお米をどう活用するか C水田を復活しないその他の耕作放棄地をどうするかの四点だと思います.それぞれについて私たちの考えを述べます。

@   どこに・どの程度の水田を作るか。

 荒田の入の下段の3枚.中央湿地の二年前に耕作を復活された3枚.出来れば冨田の入入口の部分.
 この部分は横澤入の中で最も日当たりが良く、水回りも良いと考えられます.
 特に荒田の入は現在でも、下から上へ段段に高くなっていく水田の跡が美しい景観を形成しています.水田を復活することで、横澤入らしい、すばらしい景観を中央部分に取り戻すことが出来ます。
A   誰が・どのようにして水田を維持していくか。
☆      専門家(地元の農家の人、現役もしくはつい最近まで水田を作っていた方を、東京都で雇っていただく)の指導を受けて、基本的な考え方のところで述べた「恒常的な里山維持管理ボランティア組織」が行う。
☆ と同時に、「他の自治体に貸し出す」「学校の実験田・体験学習の場」として、上記の水田1枚〜数枚を他の自治体・学校に責任を持って維持管理してもらいます.指導する専門家の配置及び水田全体の維持管理の責任は、東京都とボランテア組織が持つようにすると良いと思います.

B   出来たお米をどう活用するか。
 あきる野市内の学校給食に利用するという意見がありますが、これには二つの問題があると思います。
☆ 専業農家ですらかなり難しいといわれる安定供給の確保が出来ない.
☆ 多摩地区のお米は決して美味とはいえないと聞いています.一方、現在学校給食の食べ残しがどの学校でも2割前後を占め、その原因のひとつとして「給食はまずい」というのがあげられているそうです。

従って、別の活用の仕方を考えるべきだと思います.例えば、
☆ フアーマーズセンターにおいてもらう.「横澤入産」ということで、珍しさで売れるかもしれません.「横澤入保全のため」と銘うって売るのも良いと思います。
☆ 学校田の場合、もち米を栽培し、お餅をついて食べる、家庭に配る、などが考えられそうです。
C  水田を復活しないその他の耕作放棄地をどうするか。
荒田の入・宮田の入・下の川・富田の入・草堂の入の上部及び十字路付近は畔を作り、水路を確保して、開放水面を維持する.溜池を作る。
それにより、カエル(オタマジャクシ)、イモリ、トウキョウサンショウウオ、ホトケドジョウ・ホタルの幼虫・ヤマトセンブリ等が生息できる環境を維持します。
 又、そこを水田として利用したい個人・団体があれば、いつでも水田に出来る状態を保ちます。
下の部分については、出来るだけ湿地の状態を保つように、水路から絶えず水が流れ込むようにします。
 現在乾燥化が進み、ヤナギが育ち、アズマネザサの藪が形成されているところは、出来るだけ藪やヤナギを残します.ただしこれ以上拡大しないようにし、鳥や小動物が利用できる程度に保つと共に、生物多様性を維持するために必要な範囲での伐採作業は必要と考えます。
現在萱原となっているところは、カヤネズミや小鳥などの繁殖場所・避難場所などとしてできるだけ残すようにします。
以上、Cにかかわる作業は東京都の職員とボランテア組織の協働によって行います。
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(4)山林について

A> 「語る会」及び「葉書アンケート」に寄せられた意見

木の再利用.チップ化、木道作りなど
雪害木を土留めに使う
椎茸を栽培する
山林の薪炭を利用する
落ち葉を利用する(カブトムシ・クワガタなどを育てる)
雑木林として管理するには萌芽更新が必要だが、そのままほって置く部分もあって、両者を比較させると良い
横澤入の植物というと……湿地とコナラ林.10年くらい前よりカシが繁ってきている.アズマネザサの勢いは落ちてきているが、林の中が暗くなってきている.このままだとカシ林になってしまうので、二次林としての景観を残していくのであれば少し手を入れないと、キンランもぜんぜん見られないしコウヤボウキのようなコナラ林の下の植物も減ってきていると思う.全部は無理でも宮田のあたりのコナラ林だけでも
雪害木を伐るだけで物凄く明るくなり、そうなると下生えのアラカシ・シラカシ・イタヤカエデとかが出てきて将来的には残った杉と雑木の混交林になっていく
植林帯のほうが雑木のように枝分かれしていないので(間伐が)やりやすい.横澤入のように完全に育ちきってしまった雑木はうまく倒れない.育ちすぎてしまって(萌芽)更新もできない
一斉に伐ってしまったり(皆伐)すると、(斜面が)これだけ急だと次の林が出来るまでに地形が崩れたりする.……伐って崩れなくなるまで多分15年かかるといわれる.前の根が腐って崩れるようになってくると、次の根が張り出して崩れなくなる間隔が15年、その間どうするのかということがあるのでやっぱり皆伐は出来ない.しかし間伐は難しい

・ 横澤入の植物というと……湿地とコナラ林.10年くらい前よりカシが繁ってきている.アズマネザサの勢いは落ちてきているが、林の中が暗くなってきている.このままだとカシ林になってしまうので、二次林としての景観を残していくのであれば少し手を入れないと、キンランもぜんぜん見られないしコウヤボウキのようなコナラ林の下の植物も減ってきていると思う.全部は無理でも宮田のあたりのコナラ林だけでも.

・ 雪害木を伐るだけで物凄く明るくなり、そうなると下生えのアラカシ・シラカシ・イタヤカエデとかが出てきて将来的には残った杉と雑木の混交林になっていく。

・ 植林帯のほうが雑木のように枝分かれしていないので(間伐が)やりやすい.横澤入のように完全に育ちきってしまった雑木はうまく倒れない.育ちすぎてしまって(萌芽)更新もできない。

・ 一斉に伐ってしまったり(皆伐)すると、(斜面が)これだけ急だと次の林が出来るまでに地形が崩れたりする。伐って崩れなくなるまで多分15年かかるといわれる。前の根が腐って崩れるようになってくると、次の根が張り出して崩れなくなる間隔が15年、その間どうするのかということがあるのでやっぱり皆伐は出来ない。しかし間伐は難しい。

<B> 私たちの考え

  植林も雑木林も間伐と萌芽更新が不可欠だと考えます.種々の困難があるようですが、里山として保全するためには実現しなければならないと思います。
 横澤入全域の植林の間伐、雑木林の萌芽更新を東京都の事業として行う。
 国の補助を受けられる制度があればそれを利用する。
 その後の維持管理を東京都とボランテイア組織で行う。
 問題は間伐・伐採した木材をどう利用するかということですが、たとえば次のような利用法が考えられると思います。

(1)  植林の間伐材

☆ 木道に使う。
☆ 畔、水路、道路の土留めなどに使う。(水田・水路・道路などの補修や整備作業に使う)

(2)  雑木林の伐採木
☆ 炭焼きの復活
☆ 椎茸の栽培

(3)  チップ化し、公園や保育園の庭に使ってもらう。
バイオマスエネルギーとして利用する。
(4)木工品の作成販売を行う。
ビジターセンターなどでの木工教室の材料として利用する。

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(5)動植物について

<A>「語る会」及び「葉書アンケート」に寄せられた意見

・ キツネの巣穴は?……ずいぶん前にあっただけ。
・ 山の方で鉄塔の奥にキツネの巣穴があり、96年から毎年繁殖していたが今年は移ってしまった.(尾根の)反対側で巣穴を見つけた人がいる.
・ (釜の沢)スギ・ヒノキの植林が中心のところなので、特にこれというものはあまり無い.オオタカの採餌環境としては適している.食痕もある。
・ フクロウの巣がひとつある.……北西側の深い谷戸の上のほうで営巣していたが、その木がなくなったので、石山池の傍に巣箱を作っておいたらそこで去年繁殖していた.今年はまだわからない。
・ フクロウは尾根傍のアカマツで営巣していたが、それが倒れた後はわからない.尾根周辺に巣箱をいくつか置いたが去年は入っていなかった。
・ (宮田西)カヤネズミ・ゲンジ・ヘイケボタル・ノウサギ・アオバズク(ひとつがい営巣).耕作時の環境がそれなりに残っている感じ.里山生物が結構多いのでこのまま放棄しておくと危険.注目すべき種が少なくないという印象を受けている。
・ (荒田の入)カヤネズミ・ノウサギ・キツネ・アオダイショウ・ヤマカガシは見ている。
・  (宮田東)シロマダラ.車を停めている所で見つけた.他でも数少ないトカゲを餌にしている.アオダイショウは全域で出ているが、中央湿地が多い。
・ ホンドテンは外では結構糞があったりするが、横澤入の中ではあまり無い.
・ 横澤入にある特殊なものは何種類くらい?
・ 植物は30種類くらい.……地域の特殊性はある.カヤネズミは町田と横澤入くらいじゃないか。
・ セキショウが多い.ヘイケ・ゲンジボタル.ゲンジは産卵場所が限られているのでその環境は大事.ヘイケは田圃や畔的なところならどこでも産む.荒田の入りは生物相的には面白いところ。
・ 下の川に回り込む道沿いの斜面にクロマドボタル.クロマドボタルの雌はピンク色していて、ダニを大きくしたような形で光らない.メスを見つけるのは大変。
・ 下の川はすごい.ホタルに関しては草堂の入と共に桁が違う.カヤネズミは環境の割には少ないが、それ以外(の生物)は多い.ホトケドジョウも多い.生物相的には申し分ないところで、保全対象種だらけ。
・ 手を入れているからカヤネズミが少ないということもある.ホトケドジョウも良好、水も安定している。
・ ホトケドジョウに関しては全体が大事.問題は季節によって移動し、(それぞれの)使う意味が違う.大体今ごろ子供を産むが、産んだあとは開放水面がいる.(田圃の浅くて広いエリア)特に水口(水を引き入れ又は落とすところ)のようなところに集まって餌を食べる。子供たちが生育する場所は田圃のようなところ.冬はどん深な所に集まる.一月二月でも凍らない所にあらゆる生物が集まるのでカエルやイモリとも同居する.……水路が壊れていくことによって利用できるエリアが狭くなり、横澤入の中で往来できなくなっていく.その典型が宮田西沢.極稀に取れることがあるが、今は殆ど取れない.なぜそういう状態になったかというと他の沢との交流が無い.……整備をきちんとしないことによって水路が荒れてきたり、本来あった水路が失われて交流できなくなってくることが問題.開放水面がなくなる、草刈せずに放置され、畔がなくなって水が抜けてしまい、どんどん乾燥化が進んで田圃状の所がなくなるとものすごくマイナス.中央湿地と宮田東と下の川がホトケドジョウにとって大事.他のところは条件が悪くなって来ている.……本来ある種の魚にとってキャパシテイ(容量、収容力)が大事.中央湿地が良いと言うのでなく、本来色々の所に交通できて、色々な所に良い環境があって、全体として個体群を受け止められるような広がりがあるのが一番良い。
・ この水路は非常に面白い.セキショウもあってホトケドジョウも多い.ヤンマの類の面白いのが多いそうだ.渓流を好む水生昆虫が多い。
・ 池のところにヒメダカが持ち込まれた.小さな子供が放すのを見た.フサモとコカナダモも一緒に入れたので困る.ヒメダカ自体は肉食ではないので、それほど生態等に影響を及ぼすとは思えないが……。
・ アブラハヤもいた。Kさんは秋川本流からは上がって来れない筈と言った.25年位前にはいて、それを捕ったという(地元の)人がいる.
・ 湿地としては、貴重種が失われていくというのは環境も変わっていくということ.水位が全体的に下がってきているというのは植生でよくわかる.水が常に入っている所はミゾソバやセリ、イの群落があるが、(水が)段段止まってきているところはヨシになって、イヌコリヤナギなどヤナギの仲間が大きくなってきている.子供なんかはクワガタがいるので嬉しいのだが、あまりそのままにしておくと水がせき止められてヤナギの群落の回りにはヨシなどが押してきている.Nさんの田圃の向こう側は以前はコナギとかミクリとか貴重種にあがらないような普通の田圃の植物がいっぱい見られたし、ちょっと前だったら小学校の教科書に載っていたようなムラサキサギゴケとかミゾカキとかが殆ど見られなくなってきているので、水の流れの影響が大きいのかなと思った。
・ ヤナギの木が7種類ある.……ヤナギの群生地として残してほしい。
・ (カヤネズミはいつ頃巣を作るのか?)場所によっては年2回くらいだが、結構秋遅くまで10月くらいの時もあったが、夏が中心.田圃だと子育てしている時に刈られて減ってしまうということもある.カヤネズミは貴重になっている.生息地が減っているようで、川原も防災上草刈をしてしまうので、この辺では横澤入くらい。
・ 一部田圃を復活したところは里山の雰囲気がある.……そこだけ見るとちゃんと水田の雑草がある。
・ サンカクイが減ってきている、アゼスゲも減ってきている.?の花は横澤入で人をひきつける要素になっている.カントウタンポポも.エビネは重要度が高い。
・ カントウタンポポがいっぱいあった場所が今年はススキが茂ってしまって、坐れる場所で無くなった.
・  草堂の入りにはモリアオガエルがいる.
・  ネコヤナギは良いが、ヤナギは林状態になるとガビチョウが巣を作る.ガビチョウが増えると他の鳥の声が聞こえなくなる。

Oさんから電話で植物についての情報を得ました。

草堂の入 イワウメヅル(ツルウメモドキの小振り、そんなに多くない種)
コバギボウシの群生(他の草に負けるので減ってきている)
ツリフネソウ(ミゾソバに負けて減ってきている)
富田の入 オグルマ(小車、全体的に減ってきている、Nさんの田圃の上流沿いの畦のところ.手が入れられていないと駄目になる)
釜の久保 シロバナエンレイソウ(ミヤマエンレイソウ.山地性の植物.山と丘陵の境のところに生える.)
荒田の入 アゼスゲの群生.(群生は珍しい.草堂の入りにもある)
宮田の入 ジャケツイバラ(刺があるので根こそぎ引っこ抜かれる.里では少ない.)
下の川

クロウメモドキ(大きい木.東京都レベルでの貴重種
キショウブは何とかしてほしい.極最近のことで以前は無かった.


<B> 私たちの考え

 動植物の保全の基本は「(2)保全及び維持管理についての基本的な考え方」のB―(2)―@で述べたように、「水田・池・湿地・少し乾燥した地・荒地・草原・斜面・雑木林・植林藪等など、様々の条件を持った地がモザイク状に存在する里山を回復し・保全していく」ことだと考えます.このことによって、多様な生物が織り成す豊かな生態系を回復し・作り出すことを前提として、以下横澤入を代表する生物をいくつか取り上げ、長い間その生き物に関わって来られた方々の、「語る会」での講義の要約・現地でのご教示などを以って、私たちの提言に代えさせていただきます。(以下の要約についての文責は岡田・佐野の両名にあります。)

《ホタルについて》――佐野匡氏――
《オオムラサキについて》――宮野浩二氏――
《トウキョウサンショウウオについて》――浅原俊宏氏――
《カヤネズミについて》
鳥類について》
#(5)-6
《植物について》――大森雄二氏
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《ホタルについて》――佐野匡氏――

 卵、幼虫、蛹、成虫のそれぞれのステージにおいて棲息条件を満足させてやらないと、一匹のホタルも親にならない.水域の条件がそろわないと成虫にならずに死んでしまう.水系が連係していることが大事。
 下の川を絶対聖域にして人工的光源は遮断する.施設を横澤入内に作らず、入口に作る場合も光がもれないようにする。

(1) ヘイケボタル
@産卵の場(6月〜7月)

・ 下の川の上流は絶対聖域
・ 水溜りがあって、木が生い茂って日陰になっているところがあり、コケなどが生えている。
・ 直射日光があたらないところで木の杭で土留めをしている湿ったところ。
・二重側溝になっている事(巾は30〜50cmくらい)

A幼虫の環境(4月〜5月)
・ この期間は立ち入り禁止にする。
・ 幼虫が流されないようにする.       
      二重側溝になっていること. 
      水田だったところを櫛の歯状に杭を打って土留めをする.
・ 日陰があること。
・ 餌になるモノアラガイやサカマキガイが沢山いること。

B蛹の環境

・五月末〜6月上旬は立ち入り禁止にする。
・ 畔や田圃に杭を打って程ほどに水が溜まるようにし、あとは草地にして土手を作る.・ 側溝のある斜面の柔らかい土のところや土留めのところに這い上がって、土の中に極浅く潜るのでそこの土を踏み固めないようにする。絶対安静――枯草が羽にあたったらそれだけで奇形になる。

(2) ゲンジボタル
@  産卵の場

・ 川岸の岩や土壁にコケが付着しているようなところ
A      幼虫の環境
・ 流れにワンド(溜まり)があること――大雨でも全部が流されない(直径50〜60cmくらい、深さ10cmくらい)
・ 餌のカワニナが沢山いること。
・ 日陰があること。

蛹の環境
・ 岸辺の土を踏み固めないように立入り禁止にする。
例:本流の中央看板のあたりは、杭が打ってあるところから岸辺のところまで。

C 成虫が昼間休む場所

3)餌の貝(カワニナ、モノアラガイ、サカマキガイ)の環境
・ 餌になる付着藻類がある。
・ 二重側溝があると稚貝が流されない。
・ 所々に深みを作ってやると越冬できる。
・ 餌が足りない場合の人工的方法。       
      草を刈ったらその場に刈り倒しておく。      
      ジャガイモやサツマイモの皮を乾燥させたものをまく。

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《オオムラサキについて》――宮野浩二氏――

オオムラサキの一生
7月中旬〜下旬……産卵
11月頃〜4月頃……幼虫のまま落ち葉の中で越冬
6月初旬……蛹になる
6月末頃……成虫になる

(1)田圃を復活させて、成虫の主食である樹液の出る木を増やす。
 田圃があれば、自然のダムがあちこちにあるのと同じで、かってはそこから水が蒸発し、空気中の湿気が多かったが、今は田圃をやらないので、地下水にも染み込まず、表面を流れていってしまう。

(2)クヌギ、コナラ、エノキ、エゾエノキを増やす.樹液が出るヤナギも可。

(3)エノキの幹の直径は20〜30センチくらいが良い。大きくなると枝振りが上に向かってしまうので、幼虫があがったり下がったりするのが大変になる。
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《トウキョウサンショウウオについて》――浅原俊宏氏――

(1) 産卵場の環境
・コナラ、クヌギ、サクラ等の落葉樹の林の中にある水溜り(水深10cm位)
・流れの緩やかな水路、地下水の伏流水が流れ出ているところの下
・モグラやミミズが移動した柔らかい土の中(人の手で掘れる位.深さは510cm)

(2)産卵場の保全対策
・ 水が少ないところには落ち葉を落として、そこに木の枝を倒しておけば水が溜まる.水が流れやすいところには粗朶を組んで水みちを変えたり止水域を作ったりする.
  調査などをする時に、卵のうに泥がついてしまうと窒息死するので気をつける.
  産卵期の2月中旬には、成体は産卵場の近くの土手や土の中にもぐっているので、その時期は立ち入り禁止にする。
・ 産卵場の下のほうで田圃を作るのはよいが、上のほうは手を入れないほうが良い.。

(3)幼体の環境
水辺の環境が整っているところ.――餌になるミミズ、水生生物、水辺の木や草から落ちてくる虫がいる。

(4)成体の生息環境
・ 樹林がそのまま放置され、林床部が腐葉土で覆われなくなったために表土が無くなり、それによって土壌生物がいなくなると生息できなくなるのではないか.
・ メスは産卵後すぐ上陸し土の中に潜るが、オスは5月くらいまでそのまま留まるものもいる。

成体が移動し易いようにする為の方策

(例) 宮田の入の田圃から森林部にかけて
・ 畦道の所のアズマネザサを、道際の草丈はそのままにして、下の方に3年位かけて刈り下げていき草地にする.道を隔てた山際のほうは、山の上のほうに向かって段階的に刈り上げていく.刈る丈は一様にするのではなく自然の状態に見えるように、でっこまひっこまにすると鳥の隠れ場所にもなる.草の刈り方で防火にもなるし、斜面の土砂や水の流れを止めることも出来る。
・ 畦は人間の足2本分を限度にし、出来るだけ土手を保護する.・ 管理計画を作る(1年後、3年後、5年後……)――やったことの結果を検証して次の計画に生かし、又その検証をする。
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《カヤネズミについて》――里山遊志が1999年から2002年にかけて行った調査を、草刈智のぶさんがまとめてくれたものを使わせていただきます.

(表1)エリアごとの巣の数の変化
釜の久保 荒田の入 宮田の入 中央湿地 下の川 富田の入 草堂の入
1999年 16 12 12
2001年 34 25 23

(表2)巣の素材となった植物
ススキ ヨシ・ツルヨシ ササ イネ科 その他 合計
1999年 18 11 34
2001年 35 12 11 12 76

(1) 営巣地の確保
――表2に見るように、横澤入ではススキの原に巣を作ることが多いので、ある程度乾燥化が進み、ススキで覆われた土地も保全する必要があると思います.もっとも、他の地域ではオギやヨシを素材としていることが多いので、必ずしもススキにこだわる必要は無いかもしれません。
 調査結果からは球巣が発見された土地の状態をADの四段階に分けて記録していますが、「C 稲以外の草本で覆われ、基部の土壌は湿性を保ち、足跡には水がたまる」が圧倒的に多く、ついで「D 稲以外の草本に覆われ、基部の土壌には湿性が無い」が多いことがわかります.つまり、カヤネズミの棲息には、かろうじて湿地状態を保っているか、やや乾燥化の進んだ土地が必要だということがわかります。

(2) 餌場の確保――カヤネズミは主にエノコログサ・チカラシバなどのイネ科の植物、カヤツリグサ科の植物の種を食べます.他にバッタ・カマキリ・クモなども食べるようです.従ってこれらの植物が生える畔や土手、荒地などがカヤ原の周りに無ければなりません。
 「冬越しをする環境としては稲藁の存在がポイントになる.稲作の復活は最大のカヤネズミの保護につながる.」――最後の「考察」で、草刈さんはこう述べられています.カヤネズミの越冬場所についてはまだ解明されていないようですが、注目に値する提言だと思います.又、「考察」は次の提言を以って締めくくられています.「一ヶ所でも良いので、理想的な住む場所づくりをして、観察会ができるようにしていきたい」

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《鳥類について》――日本野鳥の会奥多摩支部が東京都知事宛に出した要望書「東京都あきる野市横澤入地区の自然環境保全についての要望書」から、要望項目のみを転載させていただきました。

1、この地区がオオタカをはじめフクロウのような多種多様な生物の生息場所として自然環境が保全されること。

2、野鳥を初め植物、昆虫など生物の観察を通して環境教育の場として、又自然を親しむ場所として活用すること。

3、今後の保全計画には、自然保護団体の意見を十分に取り入れること。

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《その他の哺乳動物について》――神田栄次氏――

1、ノウサギ  
 11月から1月には横澤入及びその周辺で、10〜15頭の生息が毎年確認できるが、2〜7月にかけては約半数に減少する.是はキツネの繁殖、子育て期と連動している.生息環境選択度を見ると、スギ・ヒノキなどの針葉樹林内の利用が多い.これは下層植生にノウサギの好む草が多いからと推定される。横澤入のみを行動圏としているのを確認できたのは1頭で、他は部分的利用であった.周辺民有林の利用度が高かったのは、伐採・植林・下草刈りなどが行われており、ノウサギ生息環境適地が多くあることが考えられる.

2、キツネ
 横澤入及びその周辺部で繁殖しているのは1ペアで、本年は、日の出団地近くで4頭の子が生まれた.子育て穴は、日出町側3ヶ所、カトリック霊園近くに1ヶ所確認できた.胃の内容物ではネズミの量が比較的少ない。

3、タヌキ
 過去に発信機を装着した3頭(日の出団地、北伊奈、小机で捕獲)は、いずれも横澤入での定住は認められなかった.横澤入では溜糞場が3ヶ所あり、周辺部を含めると10ヶ所近くある.平成3年頃から脱毛する個体が多く認められ、ヒゼンダニが確認されたので疥癬と診断した。

4、アナグマ
 横澤入では林道北側が多いと思うが、季節的変化があり、定住していないかもしれない.横澤入内で巣穴と断定できるものは一箇所も無かった。

5、ノネズミ
 田畑の跡地ではハタネズミが多く、スギ・ヒノキ林内ではアカネズミ、落葉樹林内ではヒメネズミが捕獲された。田畑跡地でカヤネズミは捕獲できなかったが、巣は確認できた。

6、リス
 もっとも減少が著しく、目撃は年1回程度である。

7、ムササビ
 あまり多くは無いが棲息しており、あまり環境変化の影響は無いのではないか。

8、野生動物による農作物食害 
 横澤入及びその周辺の農地ではトウモロコシ・トマトなどの食害が著しく、有害鳥獣駆除を行っているが、被害のほうが勝っており、早急に対策を行わないと、農地はさらに減少するであろう。

9、人獣共通伝染病
 ツツガムシ病の原因ダニが横澤入でも確認されていることから、ツツガムシ病が発生する危険があると推定している.秋期から初冬に(横澤入に)入った人で、38度以上の高熱と全身性の発疹が認められれば、患者が出ていることになる.


横澤入保全への提言

(1)水を確保するために山林の手入れをする。
 これは最重要課題.横澤入は水量が少なく、たとえ田圃を作っても水の確保が難しい.昔は田圃の堆肥にするために、落ち葉を利用していたので、林の中の手入れが良く行き届いていた.特に広葉樹の手入れをすること.コナラやクヌギは15〜20年毎に伐採する.木が大きくなりすぎると根が伸びようとしなくなるが、伐採して根が活性化し動けば、土の保水力が増す.横澤入の谷戸の奥が土砂で埋まっている所があるが、山林に保水能力があればそのような事態にはならない.又、中層の植生(シノダケ、サカキ、アオキ)がはびこりすぎて下層の草が生えないので、それらを適当に除去すれば、保水力が増し動物の生育にも良い環境になる.中層の植生の繁茂により、落ち葉が地面に落ちて腐葉土になることが妨げられ、保水力の低下になる.水量が少ないと水生生物が減少し、それらを餌にしているホタルやその他の生物の減少にもつながる。
 埼玉県の嵐山では、里山保全のために山を再生し、水の確保がしっかりされている。

(2)草刈をする
 本来の食物連鎖の状態になる.草を刈ると、新たに生えてくる柔らかい茎に昆虫が来るようになり、青虫などを食べる蜂や鳥がくる.ネズミも増え、それをキツネや蛇が食べ、その蛇をタカが食べる等々.今の横澤入は昆虫が少ない。

(3)田圃の復活
 田圃があるとカエルが増え、それをヘビが捕食する.カモ類も来る.冬、水を落とさないようにすると、そこに落ちた落ち穂がカモの餌になる
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《ホトケドジョウについて》――内山孝男氏の報告書(1999年から2001年にかけて、「里山遊志」の横澤入野生生物調査の一環として行われたホトケドジョウの生息状況調査の報告.2003年6月)に学びました.私たちなりに理解しえたことを要約してみます(誤って理解しているかもしれませんが)

 ホトケドジョウはまさに「様々な自然環境がモザイク状に存在する横澤入」を象徴する生物で、その保全のためには「生育段階や生活史の各ステージにおいて必要な環境条件」を明らかにし、整えることが大切だと考えます。
@ 産卵の場……浅い砂泥底で、底に傾斜のある場所.(深い方から浅い方へ急に泳ぎ上がって、枯草や水草などに産卵・放精する。
A 生育・成長の場……稚魚が成長し、成体が生息していける場所。餌となる浮遊生物や底生生物が豊富でなければならない.水が冷たくて澄んだ、浅い砂礫ないし泥底。緩やかな流れ.水草の間や石の下などに集まる。
B 越冬及び避難場所……冬はあまり水温が下がらない、又結氷しない小川の深い部分の泥底、開放水面や湿地の深みに集まり、冬を越す.又、大雨の時に流されないように避難できる深み、又、水草の間や石の間・下などの避難場所が必要。外敵から身を守るためにも。

@   移動のための水路……生育段階の違いや、生活史の各ステージにおいて必要な場の間を、自由に行き来できるための水路が必要。

 具体的にどこをどうするかは、私達素人の手に余ります.専門家による指導が不可欠だと考えます。
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《植物について》――大森雄二氏

一部を除き横澤入の水田の稲作を止めて久しくなった.稲の間に生えていたコナギ、イボクサ、ヒルムシロ、タカサブロウなどは稲作を止めた翌年は水田一面に広がったが、しだいに他の植物が増え3年くらいでわからないくらいになった.水田特有の植物は現在の横澤入では見られなくなっている. 草堂の入や富田の入などは放棄されてから10数年経つ谷津田だが、ミゾソバが密生し、その間にツリフネソウ、セリなどが花が咲くと目立つ程度といえる.このミゾソバ−セリ群落は長く続き、横澤入の水田跡で一番広いのはこの群落で、水がいつも入っている谷津田跡ではサンカクイやアゼスゲ、チゴザサが群生している.ヨシやオギ群落は10年前と殆ど変わらない気がする.最近は帰化植物が目立つようになり、春からハルジオン、セイヨウタンポポ、キショウブ、ヒメジョオンと絶え間なく咲きつづける.圧巻はオオブタクサで3mを越す草丈は威圧感さえある.数年前からの除去作業で少なくなったが、今後も帰化植物には気が抜けない.数年前からキショウブが水路沿いに咲くようになってきたが、ヨーロッパ、中近東原産のキショウブは観賞用にも植えられ、繁殖力が強く野生化して大群落になっている池もあるので花はきれいだが対策が望まれる。
 谷津田を囲む周辺の雑木林やスギ、ヒノキ植林地はこの10年でそれほどの変化はないが谷津田跡は変化しつづけている。特に耕作を止めてからそれほど経っていない水田は年毎に違っている.横澤入の植物の現状は、水路の放置による谷津田跡の乾燥化で湿地の植物が減り、路傍でよく見かける植物が増え(カモジグサなど)、ヤナギの高木が目立ち(タチヤナギ)、人や車が増えると共に帰化植物も増え(ヒメジョオンなど)、植物の持ち出しにより見られなくなった植物もある(ホタルブクロ)といったところだろうか。

 この10数年で減ったりなくなった植物はだいたい以下のようになると思う。

カワラナデシコ……中央付近に一株あったが、6〜7年前から見られなくなった.周辺に他の植物が茂り日陰になったのが原因と思われる。
フトイ……東京都レベルのRDB種.中央の川沿いに小群落となっていたが5〜6年前から見かけない.多摩川などの川べりにあるものは増水で流されることがあるが、横澤入のものは生け花として採られたとも思われる。
コケリンドウ……都RDB種.荒田の入東側の尾根上の日当たりの良い場所に数株あったが今年の春には見当たらなかった.丈の低い植物のため周辺の植物が伸びると消失しやすい。
イワウメヅル……都RDB種.草堂の入で4年前に杉の木についていたが、杉の木が伐採された後未確認.横澤入の日の出町側では自生している。
ミクリ……都RDB(多摩レベル).一株のみ生育していたが3〜4年前から見かけない.土地の乾燥化が原因と思われる。
オグルマ……都RDB.富田の入のオグルマは年々衰退し、今年は2株のみ確認された.草堂の入にも3株確認された.周辺の植物を取り除くなど配慮が必要。
コバギボウシ……多摩市町村RDB種.湿り気のある雑木林などには良く見かける植物だが横澤入の草堂の入では群生していた.年々少なくなっている.湿地の乾燥化が原因と思われる。
ウツボグサ……日当たりの良い湿地に普通に見かける植物だが、釜の沢の下の畦にあった群落は数年前から見られなくなり、草堂の入入口付近でわずかに見られるのみとなった.丈の低い植物なので周囲が日陰になると消失しやすい。

 横澤入の植物相維持のため谷津田跡に水を入れたり定期的な草刈りが必要と思われる。
 丘陵部の林は萌芽更新のため少しずつ伐採すると雑木林の植物相が豊かになる。
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(6)歴史文化的遺産について

 この点については、「伊奈石の会」の会誌『伊奈石』第7号(2004年)に発表された「横澤入の歴史・文化遺産の保存と活用についての提言」を殆どそのまま私たちの提言とさせていただきます.私たちにはこれを超える提言をする力がありませんし、提言の大部分に賛同できるからです.長文ですので、概要を掲げ、二三コメントを加えさせて頂きます。

@ 横澤入の歴史・文化遺産の概要と現状
☆ 伊奈石石切り場遺跡
☆ 戦争遺跡
☆ 炭焼き窯跡

A 歴史・文化遺産の整備・活用の基本的な理念
☆ 歴史.文化を学ぶふれあいの場として……生涯学習、学校教育の「総合学習」などでの活用を
  地域の歴史、文化、文化財、民俗、地場産業などを、それらが生きた形で展示するエコミュウジアム(地域丸ごと野外博物館)の一環としての活用を

B 整備・復元方策についてはまず検討機関の設置を
☆ 見学者の安全確保を優先に
☆ 将来の具体的な遺跡像は専門家を交えた検討機関で

C学習体験コース及び施設のモデル案

☆学習体験コース
☆横澤新駅・駐車場・トイレ
☆ビジターセンター
展示・学習施設

D東京都の史跡指定を
E維持管理の主体となる組織、横澤入を中心とする地域コミュニテエコミュウジアム構想は魅力的です.横澤入保全計画の枠からはみ出すかもしれませんが、周辺の自然や歴史・文化環境の中に横澤入を位置付けることは大切だと思います.横澤入を広大な砂漠の中の小さなオアシスにしてはいけないと思います.隣接する砂沼の湿地や谷戸、戸倉の豊富な湧水、網代の谷津田、戸倉光厳寺の「ところの碑」、伊奈の歴史に関係の深い信州石工の活躍の跡、地元横澤・伊奈の石工たちの足跡、などの中で横澤入を保全したいと思います。又、地場産業として、麹屋、渡辺セイロ店、浅見桶屋、山本履物店、糸工房「森」、近藤醤油、野崎酒造など、伝統的な五日市の産業を今も伝えているお店も大切にしたいものです。
 横沢新駅の設置はぜひ実現したいものです.【車の乗り入れについて】で述べたように、私たちは維持管理用及び非健常者用以外の駐車場は作るべきでないし、作れないと考えています.横澤入には電車で来てほしいと思っています.しかし、車依存の現代において、増戸駅或いは五日市駅から、30分前後の徒歩はかなりしんどいのかもしれません.横沢新駅ができれば行ってみようという人は増えるでしょう。
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(7)利用の仕方について

 今まで、個々の場所において、利用の仕方についても述べてきましたが、ここで全体的に、利用の仕方についてまとめておきます。

(1)自然観察
・ 多様な生物相の観察
・ 糞・足跡、食痕探し
・ 水田と休耕田(湿地、乾燥化の進んだ土地)、植林と雑木林の比較――表土、下草、明るさ、そこに住む動植物、そこを利用する動植物など。
・ 循環型社会としての里山を学ぶ。
・ 自然史博物館としての横澤入.――地質、地形(断層跡、地層、伊奈石など)、化石、昔から横澤入に生息する動植物。
・ 歴史、文化遺産を学ぶ。――伊奈石遺跡、戦争遺跡など。

(2)体験学習
・ 田圃作り
・ 炭焼き――本格的な炭窯で焼くのが望ましい.
・ ソバ打ち
・ 石工体験
・ 自然を素材にした遊び
    竹笛、草笛、木の弓、草団子、笹バッタ、葛かご編み、リース、わら草履、木の実・葉っぱアート、など
・ 自然との付き合い方、自然の恐さを学ぶ
    してはいけないこと、毒虫・毒蛇・蜂などとの共生・対処法を遊びの中で覚える
・ 生きていくための智恵を学ぶ
    薬草・山菜の見分け方と利用法など
・ 里山維持管理作業への参加

(3)癒しの場





(8)維持管理費の捻出方法・その他――前田美千彦――

自分達の力だけで資金調達する

基金方式
株・債権方式
会費方式
他の財団などから資金調達する
 ニッセイ緑の財団・日本財団・郵便貯金など
行政からも資金調達する
国・県・市町村
関連団体等

《ボランティアとの関わり方》
ボランティアの集め方
公募・委嘱・養成
ボランティアの勤務形態
常勤(短期の常勤も考えられる)・非常勤
ボランティアの構成――原則として登録制にする
地元・多摩地域・東京都全域・首都圏・地方(地元出身の地方は優遇する)
ボランティアの資格
有資格者・準資格者・無資格者
養成者
ボランティア・マネジャー
ボランティアへの報酬
原則として無償とする
例外として
交通費支給・食事費支給・作業費支給(日当相当)
短期イベント・長期イベントにより考慮

《おわりに》

 最後に、横澤入の動植物や伊奈石遺跡について、又その保全や活用について考えていく上で、基礎となる重要な要素である――しかし、ともすると忘れがちな――横澤入の地質・地形について、樽良平先生に話していただいたことを、要約して報告し、私たちの拙い報告書の締めくくりとさせていただきます。
 地質は秋川谷全体を考えていく.富田の入りの奥に入ったところで大きく地層が折れ曲がっている.五日市盆地が、海の中に平らに堆積していたのがグーッと持ち上がった。折れ曲がった形で地層が出ている.地層全体が90度立っている.そこに残ったのが伊奈石.実際は伊奈石自体は平に溜まっていた.地層はしょっちゅう動いている。
 1500万年位前に五日市盆地に溜まった地層.秋川谷は3億年前から(日本列島の骨格が出来た)のいろいろな地層が分布している.古生代の石炭紀、二畳紀、中生代の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀、新生代中新世の地層が横澤入を作っている.3億年前から海に堆積し、隆起し、堆積し、隆起しを7〜8回繰り返して、現在の秋川谷がある.横澤入は1500万年前に海に堆積したもので、五日市盆地が出来た.海岸から急に深くなり(200〜300m)、タカアシガニ、サメ、深いところにいる貝、パレオパラドキシア、デスモスチルスがいた.その時代に砂が堆積して伊奈石が出来た.周囲は泥で、伊奈石は粗い砂でしっかりしていたので、これが立ち上がって横澤入の周囲部分になり、尾根の部分は風化しにくいので残って、谷の部分は風化しやすかったので谷になった。伊奈石自体が横澤入の谷を作っている.五日市盆地側は、10万年位前に五日市湖が出来た。下の川に行く橋のすぐ右側のところは昭和23年に耕作を放棄している。ずぶずぶ入ってしまってどうしようもない.JRがボーリングした結果この谷全体が10mの泥沼だった。地質は現生の植物に影響がある.ということは動物にも影響がある。
2005・08・31       「横澤入を語る会」有志
浦野・岡田・岡野・佐野田中、前田・三浦・森谷・湯田


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