以下のレポートは西多摩自然フォーラムニュウス第73号から、執筆者の了承を得て転載するものです。
 
山一土地が解散  どうなる今後の展開
                            
                                      久保田繁男
 
 
山一土地が「特別精算手続開始の申し立て」
 
 永山北部丘陵開発計画の事業者である山一土地(株)と関連会社の山菱エステート(株)は、6月30日に開催した株主総会で「会社解散」の決議を行い、7月11日、東京地裁に、「特別精算手続」の申し立てをおこなった。
 負債は山一土地約833億円、山菱エステートが約74億円で合わせて約907億円。このうち三菱信託銀行の債券額は、山一土地に対して565億8千万円、山菱エステートに対して74億2400万円。
 東京都が3月31日付で開発許可を出してから、わずか3ヶ月後の解散である。「特別精算」とは、商法に基づく精算型の倒産処理で、再建の見通しが立たないために行われる処理の方式。山一土地からオオタカ保護方策検討委員宛に7月25日付けで送られてきた文書では、「当社はバブル経済の崩壊による不動産市場の冷え込みと、価格の急落等により郊外住宅事業の悪化・自然環境保護の気運の高まりにより開発許可に相当の労力と時間を要するようになったことなどから、当社にとりましては多額の資金投下と、経費や有利子負担が固定化することにつながり、これが業績悪化を招き、単なる財務内容の改善努力によっては、回復できない状況となりまして平成15年7月11日付で東京地方裁判所に特別精算手続き開始の申し立てを行いました。」と記されている。
 山一土地の三菱信託銀行からの借り入れは、その多くがハザマの債務保証によって行われてきたと言われている。山一土地の開発工事をハザマが行うことで、ハザマにとっては元が採れるという仕組みだ。ところが、ハザマが倒れかかって、三菱信託銀行はハザマの不良債権処理に乗り出し、2月の段階でハザマについては一定の整理を終えた。即ち、ハザマの不動産部門と建設部門を切り離し、不動産部門を切り捨てたうえで建設部門を安藤建設に引き取らせて片づけた。この当時から次はハザマ関連の不良債権処理だと言われ、山一土地の倒産は時間の問題だと言われていた。
 4月に入り、三菱信託銀行は行員に対するボーナスの一律20%カットの方針を打ち出す。また、都内4営業拠点の丸の内新本店への集約、店舗の統廃合、正社員・パートの1000人削減計画の削減数の上積みを打ち出す。大手行の中でも自己資本比率の高い三菱信託銀行にあっても、不良債権処理が大きな重荷になってきていた。元はといえばゼネコンの債権保証で湯水のごとく融資を行ってきたツケが回ってきたのだから、自業自得ではある。
 今回の山一土地の解散は、三菱信託銀行が融資を打ち切る判断をしたことの結果であり、ハザマの不良債権処理の第2弾として2月時点から予想されていたことだ。
 
東京都が「許可の返上を山一土地に求める」
 
 東京都は、7月14日、環境局・都市計画局・産業労働局の3局連名で、「事業規模や自然環境への影響が大きいことから、事業計画の適格性や自然環境保全上の配慮など、多くの審査を経て許可処分を行ったところであり、許可処分後このような短期間で、自ら事業の実施を放棄することになる特別精算手続を行うことは到底予定するものではありません。」として、7月9日付けで、事業者に対し、「本事業に係る開発許可等を事業者自ら都知事に返上することを求めた」旨のプレス発表を行った。
 都の対応は一見格好いいが、とんでもない。2月にハザマの不良債権処理が動き出した時点で、山一土地の今回の事態を東京都は十分に予測していたはずだ。にもかかわらず、東京都は3月25日の自然環境保全審議会で強引に採決を行い、3月31日付で開発許可を出した。開発許可が出たことで、山一土地が所有する永山北部丘陵90ヘクタールの土地評価額は桁が違ってくる。金融庁の金融機関に対する資産査定が厳しくなっている中で、期末決算を控えた三菱信託銀行にとっては、簿面上で担保価値が上がることにより、山一土地に対する不良債権の額を500億円程度目減りさせることができたと推定される。東京都の年度末ぎりぎりでの開発許可決定は、山一土地への助け船ではなく、ひょっとすると三菱信託銀行への支援であったのかもしれない。裏でどんな動きがあったのか、魑魅魍魎の世界を覗いてみたいものである。
 今回の事業者に許可返上を求める要請の発案は環境局と言われるが、環境局は3月25日の環境保全審議会に向けて、山一土地の開発計画に同意を取り付けるための多数派工作をしてきた張本人である。山一土地が工事を途中で放り出すのではないかとの危惧に、「心配ない。山一土地が責任を持ってやる。」と審議会委員一人一人を口説いてきたのが環境局である。余りに早い山一土地の頓挫に、後ろめたさが残らざるを得ない。今回の許可返上を求めるプレス発表は、東京都が体面を取り繕うために行ったものであるのはみえみえである。「許可の返上を求める」などと言わずに、許可の取り消しを行えばいいのだ。許可を取り消すと、許可したことがそもそも間違っていたことになり、行政の非を問われることになるので、「許可の返上を求める」とした。そんな猿芝居はやめて、許可取り消しを行うべきだ。
 
青梅市は「動向をしっかり見極めて対応していきたい」
 
 青梅市議会は、7月23日全員協議会を開催、木下市議の「山一土地がこうなるのを見抜けなかったということは、他の事業者が承継してもまただめになる可能性もある。一時凍結して事態を見守ってから判断すべきでは。」との提案に、竹内市長は「事業者が精算手続きに入っているので、動向をしっかり見極めて対応していきたい。」と答えるにとどまった。
 
自然環境保全審議会都民代表委員が連盟で質問状 
  
 東京都の3局連名のプレス発表に対して、7月22日、東京都自然環境保全審議会都民代表委員の現職4名及びこれまで永山北部丘陵開発計画の審議に関わってきた前職5名の連名で、都知事宛の要望書が出された。
 許可後わずか3ヶ月で、事業者が事実上の倒産といえる異例な事態は、審議会・規制部会の中で、本来中立の立場で事務方に徹すべき環境局が、事業者の擁護にのみつとめ、開発許可に向けて強引に動いたことの結果であると厳しく指摘のうえ、「開発許可を取り消すこと」を要望した。併せて、山一土地が開発許可の返上に応じなかった場合に、都はどのように対応するのか回答を求めている。
 
オオタカ検討会はどうなるのか?
 
 許可条件との関係で、山一土地により「永山北部丘陵オオタカ保護方策検討会」が設置され、すでに第一回(6月5日)、第二回(7月2日)の委員会が開催されている。今回の山一土地の解散に伴いオオタカ検討会はどうなるのか。
 前述の山一土地からの7月25日付検討委員宛の文書では、「今後開発を責任を持って行えるところに承継することが責任ある態度ではないかとの思いに至りました。」とあり、事業承継先等を選定し、事業を承継する業務は残し、ついては、「今後ともオオタカ検討会の継続と運営につきましてはひきつづきご協力を賜りますよう」とある。オオタカ検討会はこの文面からすると継続していくことになる。
 
今後の展開はどうなるのか
 
 まずは、東京都から許可の返上を求められた山一土地は都にどのような回答をするのか。「返上しない」可能性が高いが、体面を重んじて許可取り消しは行わず、強制力を持たない許可返上要請をして、再度体面を汚される東京都はどうするのでしょう。「許可返上は求めた」からそれで格好はついたというところか。環境局はますます墓穴を掘ることになるのを気付いているのだろうか。環境局の醜さばかりが表面に出るため影に隠れている、都市計画決定を行った都市計画局の責任も表に出ざるを得ないだろう。
 許可を返上しない山一土地は、22項目の条件付き開発許可物件の承継先を探すことになる。そんな簡単にはいかない。山一土地は既に土地買収に160余億円を注ぎ込んでいる。売るとなれば半値以下だろうが、許可された計画通りに事業を行うとなれば、承継した事業者は工事費等を含め、約360億円位の資金計画(支出)を立てなければならない。実際にはトンネル・橋梁が2カ所ある青梅市都市計画道路部分は過小に積算されているから400億円位はかかる。造成した2000戸の住宅を4000万円台前半の価格で6年間で8〜9割売って元が採れるというところか。果たして開発事業を承継する事業者は立ち現れるか。
 開発事業を承継する事業者が現れない場合に、開発許可を返上し切り売りの危険性が出てくる。考えられるのは、規模が大なら採石と霊園。小なら残土と産廃。市街化調整区域の網はかかったままだから、一定規模以上の計画であれば再度東京都自然環境保全審議会の審議案件となってくる。規模の小さい場合は常に監視の目を光らせていなければいけない。ちょっとした動きでも掴む地元の体制、東京都及び青梅市の規制の体制整備が必要になってくる。
 それ以上に、今回の事業を機会に、長らく放置されてきた永山北部丘陵の自然が、青梅市民及び東京都民にとって如何なる価値を持ち、どのような活用が可能なのか、土地所有と利用と管理をどうするのか、これに結論を出さない限り最終的に決着しない。

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