永山北部猛禽類調査報告書
東京オオタカ保護連絡会
はじめに
永山北部猛禽類調査は、現地に予定されている山一土地鰍ノよる永山北部丘陵住宅開発事業が希少生物に指定されている猛禽類に与える影響を評価するために2001年より東京オオタカ保護連絡会の調査員により実施された。
永山北部丘陵住宅開発事業の予定地内では、1996年地元ナチュラリスト前川和明氏によりオオタカの営巣が確認され観察が続けられてきた。この巣での営巣は、1998年以降確認されていないが、その後も幼鳥の目撃等現地での繁殖を裏付ける情報が多数寄せられた。このため、本調査は、特に計画地およびその周辺域でのオオタカの繁殖の確認に重点をおき2001年より営巣の確認を目的とした季節毎の任意・聞き取り調査と非繁殖期における林内踏査を行い、また、2002年には、猛禽類の生息状況の把握を目的に5回の、2名づつの調査員を5ヶ所に配置した求愛期の定点調査を行った。その結果、直接の営巣の確認にはいたらなかったものの、2001年、巣外育雛期の幼鳥の呼びかけ声の確認、また2002年の求愛期の定点調査では、期日を異にした4回の求愛飛行確認等いくつかの繁殖を確定するデータが得られた。また、オオタカと同じく「種の保存法」で国内希少種に指定されているハヤブサ、環境庁版RDBに記載されるハイタカ、東京都版RDBに記載されるツミ、チョウゲンボウ、ノスリの生息も確認された。
計画地における猛禽類の生息及び利用状況
本調査において以下の猛禽類が確認された。◎印は、直接確認、△印は聞き取り調査から、○印は、間接的行動の確認により状況的に確定できる項目を表している。また食性の異なるトビは、調査対象から除外した。
*太字は計画地内での確認
確認鳥種(学名)
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生息
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繁殖
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捕食
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種の保存法
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RDB
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春
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夏
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秋
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冬
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オオタカ(Accipiter
gentiles)
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◎
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◎
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◎
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◎
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○
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○
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希少種
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VU・B
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ハイタカ(Accipiter
nisus)
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◎
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△
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◎
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○
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NT・B
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ツミ(Accipiter
gularis)
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○
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○
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・B
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ハヤブサ(Falco
peregrinus)
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◎
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◎
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希少種
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VU・B
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チョウゲンボウ(Falco
tinnunculus)
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◎
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◎
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・B
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ノスリ(Buteo
buteo)
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◎
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◎
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○
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・B
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希少種:「種の保存法」国内希少種 VU:環境庁RDB絶滅危惧2類 NT:準絶滅危惧
古巣の確認
非繁殖期の林内踏査において、3ヶ所の猛禽類のものと思われる古巣を確認した。
解説
オオタカ
本調査において最も多く確認された種である。オオタカは、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(以下「種の保存法」)において国内希少種に指定され法的に保護が義務付けられた種である。当計画地内においては、四季をとうしての生息が確認され、巣外育雛期の幼鳥の呼びかけ声や、求愛造巣期の求愛飛行といった繁殖に関する行動の確認が得られている。又、猛禽類のものと思われる複数の古巣も確認されているため、この地がオオタカの営巣地である可能性が非常に高いと考えられる。また、捕食に関する行動、痕跡が時期を問わず確認されていることから、計画地及びその周辺域が繁殖期・被繁殖期を通しての主要なハンティングエリアになっているものと考えられる。
ハイタカ
ハイタカは、環境庁レッドデータブック(以下「環境庁RDB」)では準絶滅危惧種に、東京都の保護保護上重要な野生生物種(以下「東京都RDB」)では、Bランクの絶滅の危機が増大している種に位置付けられている。本調査においては計画地内での繁殖期、非繁殖期をとうしての生息が確認された。
ツミ
ツミは、東京都RDBでBランクの絶滅の危機が増大している種に位置付けられている。
本調査では、計画地周辺域で繁殖行動に分類される求愛造巣期のオオタカに対する威嚇行動が確認されている。
ハヤブサ
ハヤブサは、オオタカ同様「種の保存法」において国内希少種に指定され法的に保護が義務付けられた種である。今回の調査では、冬季の2回の調査で確認された。小鳥を追尾する捕食行動の確認から計画地をハンティングエリアとして利用しているものと思われる。
チョウゲンボウ
チョウゲンボウは、東京都RDBでBランクの絶滅の危機が増大している種に位置付けられている。今回の調査では、冬季2回の調査で確認された。鉄塔頂部で小鳥を食する行動が確認されているためハヤブサ同様計画地をハンティングエリアとして利用しているものと思われる。
ノスリ
ノスリは、チョウゲンボウ同様東京都RDBでBランクの絶滅の危機が増大している種に位置付けられている。今回の調査では、冬季、春季の定点調査で多数確認された。捕食に関する行動である探餌行動が多く確認されているため、他の種と同じく計画地をハンティングエリアとして利用しているものと思われる。
永山北部開発事業が猛禽類に及ぼす影響
今回の調査において、多くの希少種を含む多種の猛禽類が計画地内、及びその周辺域を様々な形で利用していることが明らかとなった。確認された種は、全てそれぞれに形状の異なる生きた小動物を食料とする猛禽類である。食物連鎖の頂点にたち豊かな生態系の指標とされる種の多岐にわたる出現は、本計画地の多様な生態系を裏付けるものであろう。
本事業で計画されている土地の改変は、この多様な生態系の消失を意味し、生態系ピラミッドの底辺の一角を失うことになる猛禽類への影響は、多大なものと考えざるを得ない。
今回の出現種の中で特に注目されるのは、オオタカの繁殖に関する行動の確認である。この行動の確認と、猛禽類のものと思われる複数の古巣の確認により計画地内の営巣の高い可能性と共に、この地がここに生息するオオタカが繁殖していくために必要不可欠なエリア − 環境庁発行「猛禽類保護の進め方」でいう営巣中心域であることが十分予想される。「種の保存法」に基づき希少猛禽類の保護対策の基本方針を示したこの書物によると営巣中心域の定義として「営巣木及び古巣周辺で、営巣に適した林相をもつひとまとまりの区域(営巣地)、給餌物の解体場所、ねぐら、監視のためのとまり場所、巣外育雛期に幼鳥が利用する場所を含む、広義の営巣地として一体的に取り扱われるべき区域。」と定められ、生息上支障を及ぼすおそれのある行為や事例、留意点として「この区域においては、住宅、工場、鉄塔などの建造物、リゾート施設および道路の建設、森林の開発は避ける必要がある。(以下略)」と記されている。本調査において複数の古巣の確認や、巣外育雛期の幼鳥の呼びかけ声の確認されたこのエリアの安易な土地改変はオオタカへの多大な影響が予想されると共に、この基本方針に反し、種の保存法に抵触した行為と考えられる。
あとがき − 猛禽類保護のための今後の課題
今回、猛禽類の生息状況の把握を目的とした調査が、冬季と春季のみであったにもかかわらず希少種に指定される多くの種が確認された。これらの種の営巣育雛期位あたる夏季・秋季の生息状況を明らかにするため、又、時期的な相違により今回確認のなかった繁殖のために日本に渡来する夏鳥に区分される猛禽類が、計画地、及び周辺域を利用していることも十分予想されるため今後この期間の調査が必要となる。
計画地内において繁殖に関する行動の確認されたオオタカは、本計画により多大な影響を受けることが予想される。生息個体の土地の利用状況を明確にするため、営巣木の確認を含めた、内部構造の把握のための調査を、今後行なっていく必要がある。
本調査により、現状の計画の施工が多くの猛禽類に極めて高い影響を与えることが想定された。
先にふれた「猛禽類保護の進め方」によると、開発行為等に際しての保護方策検討手順の項に繁殖の可能性が高いと判断される場合として事業者は保護方策検討のための調査を実施し、保護方策の検討を行なうよう記されている。今後、事業者は、東京都等公的な監査機関の指導のもと、「猛禽類保護の進め方」に基づいた適切な調査を行い、計画の白紙撤回も視野においた専門家による保護方策の検討を行なっていかなければならない。
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